
今週(2026年9月8日〜14日)に発表された国内スタートアップの資金調達のうち、「AIの開発や活用が事業の中核だ」と明確に言える4社を取り上げます。ロボットを動かすAI、電話をかけるAI、営業を手伝うAI、分子の形を読み取るAIと、分野はばらばらです。ただ、4社ともAIを画面の外の「現場」に持ち出そうとしています。同じ週には、AIを取り入れた教育サービスや、医療・薬局向けのクラウドサービスの調達も発表されました。これらは「AIが事業の中核か」の判断が分かれるため、今回は取り上げていません。
Algomatic Dynamics — 熟練者の「手のコツ」をロボットに移すフィジカルAI専業
会社概要 Algomatic Dynamicsは東京都の会社で、2026年4月27日に設立されました。代表取締役CEOは南里勇気氏です。DMMグループのAI企業・株式会社Algomaticが新しい体制に移ったのをきっかけに、ロボティクスとフィジカルAI(現実の空間で体を動かすAI)の研究開発と実用化を専門にする会社として独立しました。製造、物流、医療、介護、飲食など、人手不足が深刻な業界での利用を想定しています。
プロダクト概要 公式サイトによると、同社はロボット本体を作るメーカーではありません。ロボットをなめらかに動かすための「頭脳と制御の土台」を提供する立場です。技術の柱は次の3つです。
- 熟練者のコツのデータ化:熟練者の手元を撮った映像を解析します。言葉では説明されてこなかったコツを自動で取り出し、機械学習に使えるデータに変えます。
- AI多指ハンド:何本もの指を持つロボットハンドです。硬い部品から、形がそろわない食材まで、つかむ物に合わせて持ち方や動かし方を変えられます。データ集め、基盤モデルへの追加学習、実機での運用までを一つの学習基盤にまとめて提供します。2026年内に国内で公開する予定です。
- 二足歩行の安定制御:でこぼこ道、段差、坂道のような現実の環境でも、転ばずに歩き続けられる制御技術です。公式サイトでは、この技術を使った娯楽向けのキャラクターロボットも紹介しています。
今回の調達 – 発表日:2026年9月9日 – 調達額:50億円 – ラウンド:設立後初めての調達(ラウンド名は示されていません) – 引受先:合同会社DMM.com – 資金の使い道:研究開発に使うハードウェアへの投資と、計算資源の確保 – 累計調達額:設立後初めての調達のため、今回の50億円が現時点での調達総額です
発表の中でDMM.comの亀山敬司会長は、同社が過去にロボット事業から撤退した経緯に触れました。そのうえで、ここ数年の技術の進歩を理由に「今が再挑戦の時」と判断したと説明しています。お金を出したのは外部のベンチャーキャピタルではなく同じグループの中核企業なので、一般的なスタートアップの資金調達とは性格が違う点には注意が必要です。
nocall — 人の代わりにAIが電話をかける「AI電話オペレーター」
会社概要 nocallは東京都品川区の会社で、2020年12月に設立されました。代表取締役は林正悟氏です。「すべてのビジネスコミュニケーションをAI化する」を掲げ、生成AIを使った電話サービス「nocall.ai」を開発・提供しています。
プロダクト概要 nocall.aiは、企業からお客さまへ電話をかける業務を生成AIで自動化するサービスです。人間と話しているような自然な受け答えを目指しており、日本語の会話に欠かせない相づちや間の取り方にも対応しています。駅のホームのように相手の声が聞き取りにくい場所からの通話でも、安定して動くとしています。自動車、金融、人材、ITなどの業界で、大企業への導入が進んでいます。発表では次の成果が紹介されました。
- MOTA:当日のキャンセル率が15%から5.7%に下がり、1日あたり約75万円分の機会損失を防げるようになった
- ラクーンフィナンシャル:支払いの催促業務で、入金の約束を取り付けられる割合が3〜4倍に上がった
公式サイトでは、他社のシステムからnocallの機能を呼び出せる仕組みを、限られた企業向けに試験提供していることも案内しています。
今回の調達 – 発表日:2026年9月11日 – 調達額:約8億円 – ラウンド:シリーズA – 投資家:JAFCOとArchetype Venturesが共同で主導し、シードラウンドから出資しているCoreline Venturesも参加 – 資金の使い道:プロダクト開発の強化、導入企業の成果づくりを担う人材の採用、組織の拡大。実際の電話業務のより幅広い場面で使えるよう、開発への投資も積極的に進めます – 累計調達額:10億円超
Aitane — 名刺の登録から商談後の更新まで、営業の手間をAIが引き受ける
会社概要 Aitaneは東京都千代田区の会社で、2023年10月に設立されました。代表は會田純一朗氏です。「人とAIが協働する社会を創る」を掲げ、事業は3つあります。
- 営業AIエージェント「Aitane」
- 企業ごとの業務の流れに合わせたAIの個別開発と、導入後の伴走支援
- 生成AIの導入計画づくりから社内に定着するまでの活用支援
プロダクト概要 営業AIエージェント「Aitane」は、営業担当者の周りにある細かい作業をAIが引き受けるサービスです。主な機能は次の3つです。
- 名刺の処理:名刺から顧客情報を読み取って顧客管理システムに登録し、お礼メールの作成や日程調整も手伝う
- 商談の準備:商談の前に、相手企業の最新情報やこれまでのやり取りを整理・分析する
- 案件情報の更新:メールや商談の内容を読み取り、案件の情報や進み具合を更新する
さらに対面営業向けに、商談中に必要な情報を眼鏡型の端末ごしに確認できる「AIグラス」を開発・検証しています。この取り組みでは、Sテクノロジー株式会社と組み、同社の通信や機器連携の知見を活かして実用化を検証する予定です。
今回の調達 – 発表日:2026年9月8日 – 調達額:3,000万円 – ラウンド:プレシリーズA – 引受先:飯田橋クロスパートナーズ株式会社(東証プライム上場のピー・シー・エー株式会社が100%出資する投資子会社) – 資金の使い道: – 営業AIエージェントの機能拡張と、AIグラスの開発・検証 – PCAグループとの協業の検討 – エンジニアと事業開発人材の採用 – 導入企業の拡大と、導入後の定着支援体制の強化 – 累計調達額:公表されていません
ピクシオム(Pixeom) — 「AIに分子をどう見せるか」に着目した大分大学発ベンチャー
会社概要 ピクシオムは大分県大分市の大分大学キャンパス内にある大学発ベンチャーで、2025年2月に設立されました。代表取締役CEO兼最高科学責任者は、大分大学医学部の特任教授でもある松岡茂氏です。AIと分子構造の解析技術を使って、創薬や化学研究を支援する事業と、そのための基盤の研究開発をしています。
プロダクト概要 中核は、独自の分子表現技術「PSM(近接スコア行列)」です。分子の立体的な形の情報を、AIが学習しやすい、情報量の多い数値データに変換します。従来の手法の多くは、分子を文字列に置き換えてからAIに読み込ませていました。PSMは、分子の形そのものをAIに「見せる」発想で、同社はこれを「化学視覚AI」と呼んでいます。AI創薬では一般にAIモデルの性能が競われてきましたが、同社はその手前にある「AIが分子をどう捉えるか」を問題にしている点が特徴です。この技術は日本の特許(第7715333号)として登録されていると公式サイトに記載されています。
できることとして、分子の形の認識と解析、似た形の分子の検索、物性や薬としての効き目の予測、分子の設計を挙げています。想定する顧客は、大学や研究機関、製薬企業、創薬スタートアップです。今後は試作品、共同研究や実証実験、解析・探索サービス、創薬基盤の順に事業を広げる計画です。
今回の調達 – 発表日:2026年9月9日 – 調達額:公表されていません – ラウンド:シード – 引受先:ライフタイムベンチャーズ – 資金の使い道: – AIの計算環境と研究開発設備への投資 – PSM技術の改良 – 製薬企業などとの共同研究や実証実験 – 事業化に向けたプロダクトとデータ基盤の構築 – 累計調達額:公表されていません
4社の比較
| 企業 | 事業領域 | 調達額 | ラウンド | 主な投資家 | 累計調達額 |
|---|---|---|---|---|---|
| Algomatic Dynamics | ロボティクス・フィジカルAI(多指ハンド、二足歩行制御、熟練者のコツのデータ化) | 50億円 | 設立後初の調達(ラウンド名の明示なし) | 合同会社DMM.com | 50億円(初めての調達) |
| nocall | 生成AIによる電話業務の自動化 | 約8億円 | シリーズA | JAFCO、Archetype Ventures(共同主導)、Coreline Ventures | 10億円超 |
| Aitane | 営業AIエージェント、AIグラス、企業向けAI開発支援 | 3,000万円 | プレシリーズA | 飯田橋クロスパートナーズ(ピー・シー・エーの子会社) | 非公表 |
| ピクシオム(Pixeom) | 化学視覚AIによる創薬・化学研究の支援 | 非公表 | シード | ライフタイムベンチャーズ | 非公表 |
見えてくる傾向
今週の4社はいずれも、AIに文章を書かせることより、AIを現実の接点に送り込むことに事業の軸を置いています。Algomatic Dynamicsはロボットの手と足、nocallは電話の声、Aitaneは名刺や対面の商談、ピクシオムは分子の立体的な形を相手にしています。どれも、キーボードで入力するデータではなく、音声、映像、形といった扱いにくい現実の情報をAIの入り口にしようとしています。お金の出し手を見ると、DMM.comやピー・シー・エーのような事業会社側の資金が目立ちます。自社の事業や顧客網と結びつけて技術を取り込みたいという思惑がうかがえます。調達額は、グループ内での50億円から、プレシリーズAの3,000万円、非公表のシードまで大きく開いており、同じ「AIスタートアップ」でも段階と資金の性格はさまざまです。また、nocallが「キャンセル率が15%から5.7%に下がった」といった具体的な成果を前面に出したように、AIへの期待だけでなく、現場で出た数字で投資家や顧客を納得させる段階に入ってきたことも読み取れます。
参考・出典
- ロボティクスおよびフィジカルAI領域特化のAlgomatic Dynamicsが50億円の資金調達を実施し本格始動(PR TIMES)
- Algomatic Dynamics 公式サイト
- nocall.ai、シリーズAで累計10億円を調達(PR TIMES)
- nocall 公式サイト
- Aitane、PCAグループのCVC・飯田橋クロスパートナーズからプレシリーズAで3,000万円を調達(PR TIMES)
- Aitane 公式サイト
- 大分大学発・化学視覚AIのピクシオム、ライフタイムベンチャーズよりシードラウンドで資金調達(PR TIMES)
- Pixeom 公式サイト
- BRIDGE:架電自動化のnocall.ai、ジャフコなどからシリーズAで約8億円調達
- BRIDGE:営業AIのAitane、PCA傘下の飯田橋クロスパートナーズから3,000万円調達
- BRIDGE(英語版):Algomatic Dynamicsの資金調達記事
- BRIDGE(英語版):Pixeomの資金調達記事
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